いじめ重大事態と認めてもらう為に必要な事

いつもご覧頂き、ありがとうございます。

ひまわり行政書士事務所の佐藤と申します。

今回お伝えする内容は前回の記事を基に、いじめ重大事態と認めなかった事が違法と判断された事について、どの様な対応が違法と認められたのかをまとめていきます。まずはじめとして「埼玉県川口市の中学校」で起きたいじめを下記の記事にてまとめているので一度ご確認下さい。

※今回のいじめ問題に関する概要について、こちらでまとめています

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いつもご覧頂き、ありがとうございます。 ひまわり行政書士事務所の佐藤と申します。 今回お伝えする内容は「いじめ重大事態」をキーワードに、埼玉県川口市の中学校で起きたいじめについて、教師と学校・市の教育委員会の対応を違法と判断した[…]

裁判で明らかになったいじめの内容

こちらの記事』でもまとめていますが、今回の裁判で明らかになった「いじめの内容」は、

  1. サッカー部のグループLINEから外される(理由なく)
  2. 練習中にサッカー部員の1人から襟首をつかまれて引き倒される
  3. 約束を破られる、その後「(被害生徒が)一方的に文句を言ってくる」とウソの評判を流される
  4. 被害生徒の家で遊ぼうとサッカー部員から誘われたが断った事で、被害生徒と交際していた女子生徒の家に遊びに行って騒いだ
  5. 被害生徒の家周辺を無許可で撮影してLINEに投稿した
  6. 被害生徒がLINEにてなりすましを受ける(被害生徒は中傷を受ける)

といった直接的(物を隠す・壊す、身体にダメージを負わせる、など)ないじめは少なく、間接的ないじめ(悪口、仲間外れ、など)が多い事が判明しています。さらに被害を受けた生徒はトータルで4回不登校になっていた事(1回目は平成28年5月9日から12日まで、2回目は平成28年9月14日から平成29年3月24日まで、3回目は平成29年11月2日から平成29年12月15日まで、4回目は平成30年1月24日から平成30年3月15日まで)も明らかになっていますので、今回重要なポイントである「いじめ重大事態に該当する場合の対応」について、いつから重大事態に該当していたのかが学校や市の教育委員会の責任を明らかにするために必要になります。

裁判で明らかになった学校や市の教育委員会の対応

今回裁判で明らかになった学校や市の教育委員会の対応として、以下の内容が裁判で明らかになっています(裁判で明らかになった対応の一部、時系列順)。

  1. グループLINEから外された事について、1学年主任や1年時の担任はサッカー部員全員に対してLINEの使い方について指導を実施(平成27年4月)
  2. 2年生に進級する際に被害生徒保護者からクラス編成に対して要望を受け、その要望に沿った編成をした(平成28年)
  3. サッカー部顧問は2年生の担任からサッカー部内のトラブルで欠席している事を知り、被害生徒の家へ訪問。サッカー部顧問は約束を破った部員に対して事情を確認してから事前に被害生徒に伝える必要があった事を伝え、約束を守る事について指導した(平成28年5月)
  4. サッカー部顧問は被害生徒に対して「家庭学習の内容を記載して学級担任に提出してコメントを貰うノート」に関する指導を実施した(平成28年7月~9月)。その際サッカー部顧問は被害生徒の頭を握った拳で頭を軽く殴ったり、耳たぶを掴んで引っ張ったりした(校長はサッカー部顧問の対応に対して被害生徒は「サッカー部顧問のお陰です」と発言している事から体罰とは認めなかった)
  5. サッカー部顧問は被害生徒保護者から報告を受けて部員に対して「当該女子生徒宅の近隣住民から苦情が来ている」事を伝えサッカー部員へ指導した(平成28年8月頃)
  6. 被害生徒保護者から面談を申し込まれる。その際、校長は「サッカーは高いコミュニケーション能力を要するスポーツであり,サッカーの経験の長い子は要領のよい子が多いが,経験の乏しい原告は他の子についていけず遅れてしまっているのではないか」という趣旨の発言をする(平成28年9月頃)
  7. 市の教育委員会は被害生徒保護者から「(面談後に)自傷行為があった事、不登校である事、(上記の内容の発言を)校長から受けた事」を報告される(平成28年9月)
  8. 校長も被害生徒の家に何度か訪問をした(平成28年9月)
  9. サッカー部顧問は不登校の被害生徒への対応としてワンツーマンでサッカーの練習に付き合う、既存のサッカー部員に対しては当面の間LINEの使用を控える事を文書で配布する(平成28年9月)
  10. 被害生徒の家周辺の無断撮影に関して、当事者から事情聴取を実施して被害生徒保護者に謝罪(平成28年9月、サッカー部顧問と校長も謝罪)
  11. 被害生徒保護者の要望でサッカー部保護者会を開催して被害生徒の現状を報告(1回目が平成28年9月、その後、複数回実施)、最初の保護者会でサッカー部顧問が被害生徒が部員によって襟首を引っ張られて倒された事に関しては「先に被害生徒が部員を蹴っていた為」と発言、校長に関しては被害生徒保護者に「喧嘩の範疇でありいじめではない」と発言、さらに保護者会に参加できなかった保護者への説明は共に「いじめはなかった」とされていた
  12. 市の教育委員会は平成28年10月18日に被害生徒保護者から「いじめの重大事態に該当する旨」の連絡を受ける、県の教育委員会は平成28年10月18日に被害生徒保護者から同様の報告を受ける
  13. 市の教育委員会は平成28年10月24日、県の教育委員会から「いじめの重大事態に該当するとして対応する様に」と連絡を受けるが、「いじめ重大事態に該当しない」と返答する(中学校も市の育委員会と同様)
  14. 上記の対応のあと、文部科学省にも被害生徒保護者が「いじめ重大事態に該当する事」の相談(報告)があった。その後文部科学省から県の教育委員会、県の教育委員会から市の教育委員会へ指導を実施する
  15. 平成29年1月10日、市の教育委員会は市長に対して「中学校において重大事態が発生した事」を伝え、調査委員会を設置した

裁判で明らかになった学校と市の教育委員会の対応を一部まとめましたが、対応についてはとりあえず加害生徒への指導は実施している事、保護者の要望を聞いて2年時進級時にクラス替えを実施している事が判明しています。

ただ、前述した被害生徒が不登校になっている事(併せて自傷行為をしている事)で「いじめ重大事態」に該当するのにも関わらず、文部科学省が定めた「重大事態に関するガイドライン」に沿った対応をしませんでした。また、実施された保護者会において学校側の主張は「いじめはなかった」としていた事が判明しています。

今回のいじめにおいて、裁判が下した判断

今回起きたいじめに対しては「いじめである」と判断されましたが、早急に対応がされなかったものがあってもその後時間をおいて対応がされれば違法性は認められないとして、学校がいじめに対する対応は実施されたとして違法性を否定しています。

ただ、今回争点となっている内容は「いじめ」とより深刻な「いじめ重大事態」での対応について、「いじめ重大事態」に該当する事例に際しては「どんないじめがあったのか」をしっかり調査しなければならない義務が生じる為、今回の学校や市の教育委員会は「いじめの調査が尽くされなかった」としてその違法性を認めています。

【裁判で認められた事実(一部)】

  1. 本件中学校の教諭らは,教育活動を行うに当たり,いじめその他の加害行為から生徒の心身の安全を守り,生徒に対し良好な学習環境を整備すべき義務を負う。
  2. 「LINEグループ」から退会させられた事については「いじめ」と認定。
  3. 「平成27年4月頃 LINEグループから外された時に、1学年主任や1年時の担任はサッカー部員全員に対してLINEの使い方について指導を行った事」について被害生徒保護者は部員の逆恨みを買う事になったと主張するが、その理由について認める証拠が無い。
  4. 練習中に被害生徒が引き倒された事について、引き倒した部員が「被害生徒が先に足などを蹴ってきた」と主張しているがサッカーに必要的な身体的接触を超えた行為があったと認められる行為があったとは認められない(被害生徒が先に蹴ったと認められない)。
  5. 被害生徒が引き倒された事について、サッカー部顧問がいじめ防止義務について尽くさなかったと主張しているが、直ちにいじめがあったのかどうかを調査していなくても、行為からある程度経ってから引き倒した部員と被害生徒との関係について特に問題が無かった事を踏まえるとサッカー部顧問の対応が違法であるとは考えられない。
  6. LINEグループから退会させられた行為同様、引き倒された事に関して以前にも同様な行為を知る事ができたという要素が無い。
  7. 他の部員が被害生徒との約束(映画を見に行く事)を破った行為に対しては「いじめ」と認められる(最初の不登校の原因の1つであると認められる)。今回約束を破った部員は「自分が抜けても他の部員もいるし、問題ないと思ったから」と発言しており、被害生徒を害する目的でいやがらせ(約束破った事)したわけでは無い。また、この時期に関して他の部員からいじめを受けていたと認識できる要素はない。
  8. 約束を破った事に関していじめと認められるが、教諭らはすぐに家庭訪問を実施している事や約束を破った部員にも事情聴取も実施しているので、いじめ防止義務や不登校解消義務を破ったとは認められない。
  9. サッカー部顧問の行為について、被害生徒の頭を叩いたり耳を引っ張ったりした事はノートの書き方などに関する指導について必要・相当とは認めがたいので違法であると認められる。被害生徒が喜んでいたとしても頭を叩かれる事や耳を引っ張られる事は一般的に喜ぶ事ではないのでサッカー部顧問の行為が正当性を持つとは認められない
  10. 「平成28年夏ごろ、被害生徒の家で遊びたいといった部員の誘いを断った時、被害生徒は当時親しい女子生徒から「部員が家に来て中に入れろと言われて困っている」と連絡を受けた事」については被害生徒が精神的苦痛を受けている事としていじめと認められる。しかし、部員の1人が女子生徒から同意を得て訪問した事を踏まえるといやがらせ目的でしようと思ったわけでは無いし、さらにいじめを受ける恐れは低い。
  11. 女子生徒の家に行って近所の方から苦情を受けた件について、サッカー部顧問の部員に対する指導については必要限度の指導であり問題ではない。
  12. 平成27年4月から平成28年9月ころまでの時系列において、被害生徒は個別のトラブルによって心身の苦痛を受ける事があっても集団性や連続性のあるいじめを受けているとは認められない。他の部員との交流(遊びに来てた事)も踏まえると交友関係の維持ができていたと考えられる。また、LINEでのなりすましについて部員との交友関係が左右される特段の事情は無い。
  13. 被害生徒の自傷行為(右手首)について、平成28年9月15日までの経緯や平成28年10月11日の受診時の様子などに照らして本件自傷行為があったと認める。しかし、その後右手首の傷の治療を行っていない事やサッカー部顧問との練習の様子を踏まえると本件自傷行為がの被害生徒に重大な影響を与えているとまでは言えない。
  14. 市の主張として被害生徒は部員との関係については悩んでおらず、被害生徒保護者からの指示で欠席していたとあるが、これを認める証拠が無い。
  15. 中学校は平成28年9月15日、被害生徒保護者から「部員とのトラブル」で不登校になり、自傷行為にも及んでいる事が伝えられ、平成28年9月27日頃には被害生徒保護者の投稿(サッカー部員が被害生徒の家に遊びに来た際に片付けもせず散らかして帰った事を非難する投稿)により被害生徒の家に遊びに行かなくなったと認識できる。この時点で被害生徒がサッカー部内で孤立している事と部員の発言によって心身の苦痛を受けている事を認識し得たと言える。
  16. 平成28年10月24日には、「平成28年5月9日からAは12日まで学校を欠席した事」「平成28年9月14日から学校を欠席した事」を併せて欠席日数が30日に及んでいるから「いじめ重大事態」に該当すると認識して調査などを実施する必要があった。しかし、実際には部員から事情聴取をする事と謝罪する事に終始していたので、実際に解決・支援に向けた対応をしていたとは言えない(いじめに対する生徒への指導と被害者への支援をする義務を負う)。
  17. 「いじめに対する生徒への指導と被害者への支援をする義務を負う事」について、義務の履行をしない事について学校の裁量の逸脱・乱用は無いと主張するが、いじめ重大事態に該当する・認定すべき事に対して認知しない裁量は認めていない。
  18. 部員が被害生徒を引き倒した事について、サッカー部顧問が最初の保護者会で「部員が被害生徒を引き倒した事について、先に被害生徒が足を蹴ってきたから」と発言していた事、校長が被害生徒保護者に対して「喧嘩でありいじめでは無いと判断している」と伝えた事につき、サッカーの性質上、偶発的な接触の可能性を考慮する必要があり、併せて被害生徒からの事情聴取をしていなかった事も踏まえて「先に被害生徒が蹴った」と認められる証拠が無い。
  19. もし仮に「被害生徒が先に蹴った」という事を採用すると、被害生徒が部員を蹴ったのにも関わらず「自分(被害生徒)がいじめられた」と主張する事になる。この発言で学校の認識が部員や被害生徒に伝わる事となり、部員らが被害生徒に不信感を募らせ、被害生徒は学校から嘘つきと思われている事を示すので一層登校できなくなる。以上を勘案すると「サッカー部顧問が最初の保護者会で「部員が被害生徒を引き倒した事について、先に被害生徒が足を蹴ってきたから」と発言しない義務」を有していたと考えられるので、職務上の義務に違反していると認める。学校が平成29年2月2日に被害生徒保護者へ「いじめはない」と発言した事に対して、発言に至るまで学校はいじめに対する適切な対応・調査をしていない事が判明しているので、この発言をする事で被害生徒が嘘をついている事となり、他の部員などから不信や反感を買う事は容易に想像できるとして「発言をしない義務」を負っていると判断できる(今回の発言は職務上の義務に違反していると判断)。

今回の裁判のまとめ

今回のまとめとして、いじめの対応に関する学校の責任を追及する(しなければならない)場合には、いじめがどの様な状況で発生し、対策・解消を進める上でどの様な弊害があったのかを詳細にまとめなければなりません。

特に学校側が「いじめの存在」を知っていたのか(もしくは知る事ができたのか)そのいじめの被害を回避する必要・義務があったのか(いじめと被害との因果関係が認められるのか)、この2点を証明する必要があります(赤いラインが予見可能性、青いラインが結果回避義務)。

そもそも「いじめが起きている」と学校に相談しなければ、予見可能性が成立しないので学校がいじめの対応が遅れている(しない)事に関して責任が認められる事が難しくなります。また、いじめと被害との因果関係(〇〇があったから~が起きたという関係)が認められなければなりません。

いじめと不登校の関係、いじめとうつの関係、いじめと怪我の関係等、被害者側から見ると関係性が認められるだろうと考えていても、第三者を挟むと因果関係が認められないケースは少なくありません。

子供から「いじめを受けている事」を相談された場合には、できるだけ早く学校に相談する事、いじめを受けてから被害が発生するまでの一連の時系列について証明できるものを手元に残しておく事がこれからのいじめの対応に必要になっていくでしょう。

最終的に今回の事例で学校と市の教育委員会において違法と認められた内容は、

  1. サッカー部顧問の体罰
  2. 遅くても平成28年10月24日には「いじめ重大事態」として調査などの対応を進めるべきだった事
  3. サッカー部顧問や校長などの発言(いじめはなかったという事と被害生徒が引き倒された事について被害生徒が先に蹴ったからという発言)について発言するべきではなかった事

以上3つの違法を認め、学校を設置する川口市に対して「被害者側へ約55万円の損害賠償金を支払う事」を命じています。

様々ないじめの容態が発生しているなかで、「誰がどんな責任を有していて、何をしなければならないのか」を教育する側の学校や教育委員会が知らない(知ろうとしない)ケースが少なくありません。また、責任追及に注力するあまりに本来の被害生徒へのサポートが放置されてしまう事もあります。

学校関係と保護者が裁判になってしまう事はできるだけ避ける必要がありますが、今回の様な対応をする学校などには毅然とした対応を進めていきましょう。

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学校生活の中で起こる「いじめ」は学校も対応できず、対応が遅れ取り返しの付かない事態に発展する事がほとんどです。「書面」という形に残す事で積極的に学校に対応を求め、事実を明るみにする事が可能です。 また、書面で学校に要望する事で「対応を求めた経緯」が事実として残るので、学校の「いじめとは認識していない」という言い訳も防ぐ事ができます。

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